バベットの晩餐会(1989)

バベットの晩餐会 HDニューマスター [DVD]

Babettes gæstebud (1987) 

懐かしい。これを見たのは大学生のときかな。当時はミニシネマブームでヨーロッパやアジアの映画があちこちで紹介されてた。こんな映画ばかり好んで見に行ってた気がする。アカデミー賞と英国アカデミー賞で外国語映画賞を初めて受賞したデンマーク映画。だって。

監督:ガブリエル・アクセル
出演:ステファーヌ・オードラン/ボディル・キュア/ビルギッテ・フェデルスピール/ヤール・クレ/ジャン=フィリップ・ラフォン

デンマークのユトランド半島の海辺の田舎の村が舞台。時代は「皇后がフランスを追放」と「1845年のワイン」が会話に出てきたので、ナポレオン3世の頃から後の時代と推測。漁村で牧師の家に生まれた姉妹マルティーヌとフィリップの2人は、生涯結婚することもなくその収入と時間のほとんどを奉仕することに使ってきました。貧しい姉妹の家にはなぜか家政婦バベットがいますが、その理由は2人の過去のロマンスにあります。長く2人の姉妹に仕えてきたバベットは、ある日宝くじに当選し1万フランを手にします。バベットは2人の姉妹に亡き牧師の生誕100年の晩餐に、ぜひフランス料理を振舞わせてくれとお願いします。

当時の1万フランは現代の価値で約3800万円くらい。貧しい漁村の家政婦にしてみたらかなりの大金。劇中に登場する『カフェ・アングレ』はパリに実在した高級レストラン。現在の『ラ・トゥール・ダルジャン』の前身らしい。このレストランの晩餐会12人前は、1万フランというのだから、本当に貴族だけのものだったみたい。

一人当たり320万円の料理って庶民は想像もできないけど、食材にかける費用もそうだけど輸送費もかなりかかるのかも。他の食材はともかくワインをフランスからデンマークまで運ぶのに、当時は馬車と船しか輸送手段はなかったはず。しかも冷凍はもちろん冷蔵も氷以外に手段はないから、うずらもウミガメも食材は生きたまま運ぶのが当時の常識だった様子。使う部分は一部分でも丸ごと1匹買い取るのだから、必要以上に値段も張るのかも。新鮮なA5ランク和牛を食べるには、丸ごと一頭買って運んでくるってことでしょ。

そう考えると当時の常識だった貴族の料理って、すごい贅沢品だったんだなと今更ながら思ってみたり。晩餐会の終わったキッチンにその片鱗が伺える。そこかしこにたくさんの食材が残っているけど、その日消費しきれなかったものは、全部処分されちゃうんだな。と思いながら見てた。

うずらの頭は齧って啜るというのはちょっと衝撃。今まで慎ましやかな食事しかしたことない姉妹にしてみたら、ウミガメやら牛の頭やらが運ばれてきたら「悪魔の食事」と思うのも無理はない。「絶対に(悪魔の)食事のことを話題にしない。」と誓った村人たちの食事風景も見どころ。1人だけ誓いを交わしていないローレンスの賛辞に、村人たちが返す的外れなやり取りが絶妙。

映画全体はキリスト教的な愛がテーマに感じる。2人の姉妹が生涯それぞれの恋心を胸に秘めつつ、生涯独身で村の人々に奉仕し続けたことや、バベットが全ての賞金を姉妹のために使ったことは、「献身」という言葉に尽きると思う。二つのロマンスにしても、お互い告白したわけではないのに、ローレンスもパパンもそれぞれマルティーヌとフィリップへの想いを一度も捨てることなく持ち続けている点は、最後のローレンスの「肉体や距離は関係ない。どこにいてもあなたのそばにいる。」の言葉に表れている通り、もはや恋愛ではなく愛でそれは一種悟りに近いものに感じる。深いものをテーマにしているように感じられるけど、決して説教くさくなく宗教じみた印象も受けないのもこの作品の特徴かも。事件は起きないけどミス・マープルのセント・メアリミードみたいに、淡々と村人の生活が描写されたのどかな雰囲気の「慎ましやかな」コメディ映画でした。