植物と都市の未来|コルヌトピア

第5回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞した作品で、植物をコンピュータの計算資源として利用している世界という設定。

昨年末あたりに読んだ近未来の東京が舞台のSF小説。植物がコンピュータの計算を補助するという設定に興味を持って読み始めたが、これが思っていた以上に面白い。

植物の情報伝達は既に科学の世界でも解明されつつあるらしい。植物同士だけではなく、昆虫など他の生物とコミュニケーションを取るというのも割と定説らしい。そういえば某所で働いてた時に、植物とコミュニケーションをとるツール「プラントーン」なんて商品も扱ってたな。

・「植物内部の「警報」伝達、可視化に成功」NATIONAL GEOGRAPHIC

物語の舞台になる未来の東京では、コンピュータの計算のために、植物が植えられた<フロラ>と呼ばれる技術を開発。大規模なサーバやホストコンピュータを持つ代わりに、東京全体を環状に取り巻く<グリーンベルト>が作られ、世界でも有数の計算資源都市となっている。

経済や金融といった特定の分野でなく、「計算資源都市」という呼び方に、コンピュータの計算を必要とする全ての分野が、東京という都市に集中していることが想像できる。でありながら、SF映画のような未来都市ではなく、フロラの存在が高層ビルの谷間にも緑が豊富にある都市を実現しているのだ。

都市を運営していくために必要な大規模な計算はグリーンベルトが担い、小規模な計算は必要なだけフロラを設置して行なっている。高層ビルを割って這って出たような植物群や、天井や窓際の植栽など、よくある未来都市とは違う世界観がおもしろい。

さらに興味深いのは、フロラと交信するのが機械ではなく人間であること。植物が出した計算結果は、植物独特の方法で細胞に蓄積された<パターン>と呼ばれる状態で、それを一度人間が<分析>して、その結果を演算結果としてコンピュータに反映させるらしい。

人間側は<ウムヴェルト>と呼ばれる機器を直接首のあたりに装着し、電気的な刺激を介してフロラからパターンを読み取るという仕組み。パターンの読み取りは個人差があり、パターンの読み取りにおいて秀でた才能を持っているのが主人公。

ところがこの主人公、じつはフロラとは相性が悪い。パターンとよばれるように、 フロラの演算結果は接続した人間に<イメージ>ような形で受け取られる。電気的な刺激を介して受け取るデータには、どうしても受け手の主観が入ってしまい、それがパターン読み取り精度に関わるらしい。フロラと相性が悪いおかげで、主人公は一般の人より客観的にパターンを読み取ることができ、コンスタントに精度の高い分析ができるというわけ。

物語自体は、正直それほど面白いとは思わないが、繰り広げられる世界観には共感を持てる。昨今のSFの未来像は、今の世の中を反映し、一握りの富裕層とそれ以外の貧しい一般人で構成される世界が多く描かれるが、この作品では希望の持てる未来都市が描写されている。

もちろん、現代と同じように不適合者が隔離されたり、テロ行為が行われたりはするが、圧倒的な力で押さえつけられるような世界は描かれていない。むしろ少数派でも同じ世界を共有できる手段がないか、模索する展開すら描かれている。

単に作者が日本人であることが、こうした楽観的な未来像人つながっているのかもしれないが、緑豊富な未来都市・東京は、僕だけに限らず多くの人にとって魅力的だと思う。アニメでもいいから、「映像化された世界を見てみたいなぁ。」と感じるくらい。

でも映像化するときには、ストーリーは別の人が脚本を書くといいよね。